人事戦略の実現には、コアバリューとの一貫性が大切-カインズCHRO 西田氏に聞く人事戦略−

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人事戦略の実現には、コアバリューとの一貫性が大切-カインズCHRO 西田氏に聞く人事戦略−

2021年9月に新たな人事戦略を発表した、全国に228店舗を展開するホームセンター・カインズ。経営と人事を意識しながら戦略を進めていくにあたり、重要なポイントはどのようなところにあるのでしょうか。本記事では、カインズにおける新戦略浸透策を取り上げながら、戦略達成へ向け人事が意識したい点について、CHRO 兼 人事戦略本部長の西田政之氏に伺います。

西田政之 氏

株式会社カインズ 執行役員 CHRO 兼 人事戦略本部長 兼 CAINZアカデミア学長

米系資産運用コンサルティング会社や米系組織人事マネジメントコンサルティング会社などを経て、2015年、ライフネット生命保険株式会社に転じ、取締役副社長に就任。2020年4月よりネッツトヨタニューリー北大阪株式会社社外取締役を兼務。2021年、一般社団法人日本CHRO協会理事に就任。2021年6月より現職。

カインズ_西田氏

1.コアバリューと組織戦略は一貫させる

―人事戦略を実現に導くため、重要なポイントはどんなことですか?

西田:人事戦略は、事業戦略、あるいは企業としてのコアバリューとの連動を意識しなければならないと思います。コアバリューについては、企業がこれまで大切にしてきた考え方や価値観と捉えるといいでしょう。従業員は日々、事業戦略の達成を目指し、その企業の価値観を基準として業務を行っています。長きに渡り自分たちの核となっている指標や価値観があって、それを無視した関係のない人事戦略をゼロから打ち立てたところで、そんな戦略は従業員に響きません。

―自分たちには関係ない、まったく別のものに思えてしまう。

西田:そうですね。「上の人がよくわからない新しいことを始めたぞ」と思われてしまう。

―とくに人事の方が中途入社の場合では、「この会社のことを何も知らない人がつくった戦略」と思われることにつながりそうですね。

西田:新しい人事戦略を策定することは、それまで築いてきた組織としてのあり方を否定することとは異なります。企業の向かう未来や事業戦略、大切にされてきた価値観など、核となるものは大切にしながら、人事戦略を考えていかなければならないでしょう。

カインズ_西田氏

2.コアバリューとして大事にされてきた「DIY」のキーワード

―コアバリューを大切に、といったお話もありましたが、カインズのコアバリューについて教えてください。また、そのコアバリューに基づいてどのような施策を実施しているのでしょうか。

西田:カインズには、「DIY(Do It Yourself)」というこれまで大切にしてきた価値観があります。私達はいつもDIYの素晴らしさを、お客様へ伝えてきました。ワークショップやイベントなどを通じて、その楽しさは、従業員自身がよく知っているはずです。だからこそ、それを基にした「DIY HR®*」という人事戦略の具体的コンセプトにたどり着きました。自身の働き方やキャリアも、自分自身で考えたりつくったりしよう、という想いを込めています。

―DIYというワードには、とてもカインズらしさを感じますね。

西田:そうですよね。よく知っているものだから、自分たちの働き方やキャリアに関して同じようにDIYで実践しようというメッセージも浸透しやすかったのだと思います。

―まったく新しい人事戦略ではなく、これまであった考え方を活かして、新人事コンセプトとしたのですね。

西田:そうです。やはり戦略や制度は、ゼロからつくっただけでは理解されにくいものです。浸透させるための、土壌があるかどうか。事業として大切にしてきたものとつながりを感じられるかどうか。そこに、人事戦略を成功に向かわせるカギはあると思います。カインズの場合は、「DIY」というキーワードで事業と人事がつながったと言えるでしょう。

3.DIY HR®︎の風土(カルチャー)づくり 具体例

―カインズでは、「DIY HR®」に関してどのような施策を実践していますか?

西田:まずはDIYしてもらうため、つまり従業員が上意下達文化から脱却し、能動的に、自らのキャリアやそのための学び、働き方を考えてもらうための施策を実施しています。どちらかというと、心理的安全性を確保しながら、風土改革を通じて「DIY HR®」を浸透させていこうとする試みです。

このように考えなさい、キャリアとはこういうものです、と具体的すぎる指示は行いません。なぜなら、あまりこちらが干渉し過ぎてしまうと「自分で」というコンセプトからは外れてしまうから。私たちはあくまできっかけをつくることに徹しています。どんなことが、キャリアや学びについて考えるきっかけになるかは人それぞれ。ですから、様々な角度からの施策が必要だと思います。

―様々な角度からの施策、とは?

西田:「DIY Learning®」「DIY Communication®」など、いくつかの項目を設定し、多岐にわたる施策を考えています。たとえば学びのきっかけをつくるために、希望者全員にビジネススクールの簡易講座を自由に受講できるようにしたり、著名人をゲストに招いたリベラルアーツの講義を実施したり。コミュニケーション活性と関連した学びということでいえば、社内ラジオなども評判がいいです。新店舗の開店当日に密着した配信は、音声により現場の高揚感がリアルに伝わったと好評でした。

―キャリアを考えるきっかけ、コミュニケーションのきっかけ、学びのきっかけ、と項目はいくつか設定しながら、細かい施策はかなり多様なアイデアを基にしているのですね。

西田:ええ。もっと日常的な学ぶ機会の提供で言えば、社内SNSで書籍の紹介などを行うことや、朝会の内容などもDIY HR®の5つの柱を曜日毎のテーマに設定して、従業員自らが企画しています。例えば、DIY Well-being®の曜日にはヨガや手話の勉強会をするなど、充実した中身になっています。

DIY HR®︎の施策全体像
株式会社カインズ提供:DIY HR®︎施策の全体像

―きっかけを与えるだけでなく、自主的に企画をしてもらうこともあるのですね。

西田:こちらからの発信で何かアンテナにひっかかってくれれば、と望んでいるものもありますし、従業員が自発的に企画してみんなの学びにつながるものも。こちらが強制するのではなく、あくまできっかけを提供し自分の頭で考えてやってみることで、DIY HR®の面白さに触れていってほしいと思っています。

―人事制度などの施策に関してはどうでしょうか?

西田:もちろん制度に関しても、DIYの考え方で一貫させています。まずキャリアパスですが、これまではみなが店長を目指すという単線型のキャリアでした。しかし新人事制度の中では、店長を目指すのか、他の道に興味があるのか、そこも自ら考えてほしいと思っています。 ここでも店長以外をやるようにとこちらが決めつけるのではなく、多様な道を考えるきっかけを意識します。

たとえば社内インターンや社内副業の制度。週5日間すべて同じ仕事をするのではなく、興味のある仕事をやってみて、それまで知らなかった仕事について知ることを可能に。その土台には、リモートワークの導入も必要ですね。店舗スタッフとして働く一方で、副業として本部スタッフとして働く。そんな未来も遠くはないことでしょう。

―面白く、そして真似したくなる取り組みをたくさん聞くことができました。

西田:もちろん、これらの施策を他の企業がそのまま真似したとしても、うまくいくとはいい難いものです。なぜならこれらの施策は、カインズに元々あったDIYという考え方から生まれた施策だから。企業ごと、組織ごとに必要なことを考えていくのが重要だと思います。

4.「やりっ放し」と「過去の否定」はNG

―他の企業でも共通して意識すべき人事戦略達成へ向けたポイントはどのようなことでしょうか。

西田:主に2つあると思います。1つは、PDCAを回すこと。言い換えれば、「やりっ放し」にはしないことです。新たな人事戦略に基づいて動くとき、そこには様々な新たな仕組みや施策が生まれるでしょう。だからこそ、どの施策がどんな成果につながったか必ず振り返ります。闇雲にやり続けるのではなく、軌道修正することも必要だと考えましょう。当たり前に思えるかもしれませんが、最初に振り返りまでをスケジュールを組み込んで考えるのがコツだと思います。

―振り返りを行うことで、よりよい施策にアップデートできるのですね。

西田:加えて、それは従業員との信頼関係にも影響します。ただ新しいことをたくさんやっては立ち消えるような組織だったら、どうでしょう。そんな人事戦略には、従業員もだんだん賛同したくなくなっていきますよね。仮に上手くいかないものがあったとしても、「これはこういった結果になったので、こう改善を行います」と振り返ることができるだけでも、従業員との信頼関係は全く違うものになっていくはずです。

―もう1つはどのようなことですか?

西田:2つ目は企業のコアバリューを活かすことと通じるのですが、これまで企業が築いてきたものを活かすことです。たとえば、カインズはこれまで「チェーンストア理論」を軸とした経営を行ってきました。チェーンストア理論は、DIY HR®の自分で考える方針とは一見相反する考え方にも感じられるかもしれません。だからといって、それは活かせないものではないのです。

新人事戦略にともなって、多くの施策が同時並行的に動きましたが、人事のメンバーは決まったことを着実に早く、実行に向けて動いてくれました。この実行力は紛れもなく、チェーンストア理論の考え方の中で磨かれたものです。これまで築いてきたものの中にも、活かせるものはたくさんある。新たな戦略を掲げるときも、これまでのやり方とガラッと置き換えるのではなく、これまでのやり方をよりよく伸ばしていくための戦略、と捉えてみてほしいと思います。

カインズ_西田氏05

5.まとめ

新たな人事戦略を浸透させ、推進させていくために必要なこと。それは全く新しいものに切り替えて始動するのではなく、すでに企業のなかで大切にされている事業戦略やコアバリュー(核となる考え方や価値観)との連動を考えることでした。

行う浸透策や人事制度は、コアバリューを基軸にアイデアを広げてみる。ただし、試行錯誤をしつつもPDCAをきちんと回すことが従業員との信頼関係をつくることも押さえておきたい点です。 そして、これまでのものを否定するのではなく、活かし、もっとよくしていくための新戦略を考える。その際には「DIY HR®」など、その戦略を象徴する「言葉の力」も重要です。企業を進化させていく人事として、常に意識をしておく必要があるでしょう。

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*DIY HR®、DIY Career path®、DIY Learning®、DIY Communication®、DIY Workstyle®、DIY Well-Being®は株式会社カインズの登録商標です。

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