ラクスル社の事例から紐解く、HRBPの役割とは-前編-

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HR SUCCESS Online(https://hrmos.co/seminar/hrso/)は、HR領域において先進的な取り組みをされている企業の経営者や人事担当者をゲストにお迎えし、「人材開発」「組織開発」における課題解決に役立つ情報をお届けしてまいります。

第14回は「急成長企業のHRBP」をテーマに、ラクスル株式会社のラクスル事業本部HRBPの大原氏をお招きし、同社の取り組みやHRBPのあり方についてお話しいただきました。事業に入りこみ、事業や組織の成長を支える人事の本質的な活動について掘り下げます。

今回は前編として、ラクスルがHRBPを配置するに至った背景や、HRBPの役割についてまとめたものをお送りします。 

大原一峰氏

ラクスル株式会社
ラクスル事業本部HRBP 

2017年ラクスル入社。人事部門の立ち上げ、HRBP機能の立ち上げを担当。事業経営×組織人事の実現を追求する。ラクスル入社前はそれぞれ3年で20名→250名、7年で500名→1600名の企業規模拡大の中で人事部門の立ち上げや総括を行う。

茂野明彦

株式会社ビズリーチ
HRMOS事業部
インサイドセールス部部長

大手インテリア商社を経て、2012年、外資系IT企業に入社。グローバルで初のインサイドセールス(IS)企画トレーニング部門の立ち上げに携わる。2016年、ビズリーチ入社。インサイドセールス部門の立ち上げ、ビジネスマーケティング部部長を経て、現在はHRMOS事業部インサイドセールス部部長を務める。

産業インフラづくりにチャレンジし続けることを見越し、組織をつくる

大原:ラクスルは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンのもとに、巨大産業がオンライン化する未来に向けて、最適な産業構造や産業インフラをつくることにチャレンジしています。現在は、印刷・物流・テレビCMという3事業を展開しており、今後も4つ目、5つ目の新たな領域に進出していこうと考えています。

私が人事として働くうえで捉えているラクスルの特徴は大きく3つあり、1つ目は「事業が複数存在し、増えつづけている」ということ。それぞれの事業は別産業にアプローチし、各事業は独立性が高く、それは組織の自立性にも影響します。2つ目は各事業が巨大な成長ポテンシャルを持ち、組織規模の急拡大が見込まれること。そして3つ目は事業間のシナジーはわかりやすい共通の顧客基盤などではなく、ビジョンに加えて、力強く事業と組織を立ち上げ成長させる、再現性ある仕組みがシナジーであるということです。

茂野:ありがとうございます。大原さんの社内での役割についてお伺いしたいのですが、すべての事業のHRBPをご担当されているのですか?

大原:私が担当しているのは印刷事業で、物流事業とテレビCM事業は別のHRBPが担当しています。現在ラクスルには従業員が約300名在籍しており、そのうち約200名が印刷事業に関わっています。印刷事業にはビジネス職だけでなくエンジニア、オペレーションのメンバーやその他に海外の現地法人や出資先スタートアップの人事支援などもあり、一部門というよりは一企業を見ている感覚ですね。

「人事の立場で経営陣と向き合う」のではなく、「経営陣のひとりとして人事を管掌する」

大原:ラクスルのHRBPのテーマは、「事業の経営チームとして事業価値の向上にコミットする」ことです。 事業ごとに事業経営チームがあり、事業の責任者、プロダクトの責任者、エンジニアの責任者などでチームが構成されますが、HRBPもそのチームの1人として事業責任を負っています。「人事として事業に寄り添う」「事業の相談役になる」という話はHRBPを語る際によく言われていることですが、人事として事業部門を担当するのではなく、まずは事業の経営者であり、事業経営の視点から人事組織を管掌するのが目指す姿です。

茂野:HRBPについて話す際には、人事としての経営層との向き合い方や、事業の支援の仕方について議論されることが多いと思います。「経営陣の1人として人事を管掌する」と、「人事の立場で経営陣と向き合う」という言葉のニュアンスの違いは大事だと思うのですが、この2つの大きな違いはなんでしょうか。 

大原:常に中長期の事業目標からやるべきことを考えながら、「なぜやるのか」を明確にすることは重要だと思います。またその目標に直結していれば、やるべきことは人事のどの領域のことでも、あるいは必ずしも人事領域でなくてもいい、というところだと思います。 

茂野:受動的なのか能動的なのかの違いともいえると思うのですが、自分の役割を人事という仕事に制限し、会社からおりてきた課題を解決するということではなく、出すべき結果から逆算し、事業成長のために何が必要なのかを考える。人的リソースなどの課題があり、人事の施策が必要なのであれば、それを実行すればいいし、そうでなければ、そこにこだわる必要はない。それが、人事担当とHRBPとの大きな差であるということが、御社のHRBPのスタンスということですね。 

大原:そうですね。HRBPとして考えるべきポイントはいくつかあります。「3年後に事業価値がどうなっているか」「それはお客様にどのような価値を提供できている状態なのか」といったことに加え、そのための組織体制や、メンバー構成、売上や粗利に対する人件費比率など。それが頭に入ったうえで何をすべきかを決め実行します。「なぜ」「何を」実行するのかが3年後の事業価値から逆算され、しっかりと自分の中で描けていることが私の中でのHRBP像です。 

茂野:細かい数字などが頭の中に入っているのは大前提とはいいつつも、人事の仕事の中で管理していくものが多いなかで、常にそれを把握し続けていくことは大変だと思います。大原さんのなかで気を付けていることはありますか? 

大原:既出ですが「なぜやるのか」「どうあるべきか」を事業目標と紐づけて考えること。またデータに関してはいつでもわかりやすく把握できるようなプロセスをつくっておくことと、「個別事象と全体像」「過去・現在・未来」など立体的に考えたり状態把握できるようにすることですね。 

茂野:御社にはデータ整理やデータ分析の専門家、アナリストはいらっしゃるのでしょうか? 

大原:人事部門にという意味ではいないです。専門性が必要な高度な分析は少なくとも現在は必要性が薄いと思っています。「今月末・来月末・今年度末に人件費とヘッドカウントはどうなっていますか?」「売上や粗利に対する比率は事業のあるべきからみて正しい推移ですか?」「平均人件費や職種比率はその次の勝負のために適切ですか?」。こういった問いだけでも私の経験上人事がシャープに答えられることは多くなくて、高度な分析ではなく問いの設定と正しい情報収集や予測が大事だと思っています。

ラクスルがHRBPを設置することになった背景

茂野:ここで視聴者の方からのご質問があったのでご紹介させていただきます。「HRBPが経営に入りこむことはすぐにはできないのではないか。そこに至るまでにはどのようなエピソードがありましたか?」ということですが、御社がHRBPを設置することになった背景や、経営層とのコミュニケーション、経営に入りこむための道筋についてお伺いしたいと思います。 

大原: HRBP制導入前後を振り返ると、主力の印刷事業が力強く成長を続け、物流事業は急拡大し、テレビCM事業が今まさに立ち上がろうとしていました。会社全体は一部上場を控えガバナンスを強化するとともに複数事業を運営する経営体制への進化を目指していくといった状態でした。 そのような状況下では全社経営や各事業経営視点で経営層から人事に対してそれぞれの最重要課題が来るようになってしまいました。結局、人事部門も自分たちの課題にフォーカスすることができず人事も事業もストレスを抱える状態にあったように思います。そこで事業とコーポレートそれぞれにフォーカスする人事機能を持つようになりました。

事業フェーズの違う各事業にHRBPを配置さまざまなチャレンジを行うなかで、人事がどのタイミングでどの程度まで事業に入りこむのが最適かの事例が溜まり、ブラッシュアップされていくことが、今後さまざまな事業を展開し拡大していくなかで重要なポイントだと思います。 

茂野:事業ごとに人事担当や採用担当などをつける、という選択肢がある中で、HRBPをあえて設置した背景についてお伺いしても良いでしょうか。 

大原:ラクスルでは各事業が非連続的に成長していくことを目指しています。採用や人材育成など人事領域の課題設定と実行は事業成長のために最も重要なことの1つです。それらの重要ことについて各事業の経営チームが人任せにせず、強度を持って意思決定を行えるようにするべきだと考えています。

HRBPの一番の仕事は目標達成のために何にフォーカスするかを決めること

茂野:各事業に管理機能を置くと、機能が重複して無駄な部分がでてくるのではないか、というご質問をいただきましたが、この点についてはどのようにお考えですか? 

大原:無駄になる可能性もありますよね。難しい問題です。ただし、何に対しての無駄なのかは考えた方が良いと思っていて、ラクスルグループ全体でのオペレーション工数や人件費の観点から、遠心力でなく求心力を効かせる必要性があるケースはあって、その視点は常に持っておくべきだと思います。ラクスルでも採用オペレーションや給与労務などは中央で統一して持っています。

一方で横軸組織として求心力を持つがゆえに、目的に対して曖昧になる無駄であったり、事業のスピードや強度についていけないという機会損失などの無駄もあります。結局は何を捨て何を活かすのかをしっかりテーブルの上に載せて意思決定することが必要です。

HRBPの一番の仕事は、何にフォーカスするかを決めることだと思っています。採用担当や育成担当など機能を担っているわけではありません。3年後にこの事業の目標を達成するために、この3ヵ月あなたは何に変化を起こすと決めて何を実行しますか?と問われ続ける仕事であり、それはやはり事業の外にいてはできないと思っています。 

茂野:ここで、もう1つ視聴者の方からのご質問がきているのですが、HRBPとCHROの違いについてはどうお考えですか? 

大原:私自身はその違いは重要ではないと思っています。ラクスルの各事業が会社だとすると、HRBPとCHROはある意味一緒です。今は事業部ですが、もし分社化をして事業部が子会社になればCHROと呼び方が変わる程度の違いだと思っています。HRBPだとしても事業として投資家を意識した意思決定や情報提供まで求められます。経営チームとして未来を描き、実現に近づけているのか?ということが重要で、それを最大化するために名前をつけることが必要ならばそうすれば良いと考えています。 

茂野:ありがとうございます。HRBPはプロジェクトマネージャーに似ていると感じました。プロジェクトマネージャーと違う点は、より経営の視点で行動していかなければいけない点だと思いますがいかがでしょうか。

大原:そうですね。私自身、自分で手を動かすことも多いですが、各本社機能などいろいろな方に動いてもらわなければいけない時は、事業部の代表としてプロジェクトマネージャーのような動きをすることもあります。また、採用に関しても普段は各採用枠の上司であるHiring Managerとコーポレートの採用チームが責任を持って動いています。私は事業全体の採用に責任を持っている立場であり、必要があれば何でもしますが、うまくいきそうであれば特に動きません。 

茂野:ありがとうございます。他のHRBPと事業を横断したコミュニケーションを取ることはありますか?また、どのようなコミュニケーションを取られますか? 

大原:事業を横断してコミュニケーションを取っています。一方で、取らなくても仕事はできると思います。ただし、力強く事業や組織を立ち上げていく、それを高い再現性を持ってできるようになるということが命題なので、その実現のためには相互学習が重要です。私はコーポレートを経験してからHRBPをしているので、会社の細かいところまでわかる部分が多いのですが、外部からHRBPとして入社される方はより難しさがあると思うので、情報交換をすることで少しずつコーポレートの仕事を受け持って、HRBPのなかでローテーションをしながら1つの「ラクスル」をつくっていくチャレンジがこれからあると考えています。

まとめ

  • ラクスルではそれぞれの事業の独立性が高く、事業ごとにHRBPを置いている。
  • ラクスルのHRBPのテーマは「事業の経営チームとして事業価値の向上にコミットする」こと。
  • ありたい組織像と細かいデータを意識し、3年後の事業を見据えていくことが大切。
  • HRBPの一番の仕事は目標達成のために何にフォーカスするかを決めること。

レポート後編ではより詳細に、

  • ラクスルのHRBPとして意識していること
  • HRBPとして組織の課題設定をする際のポイント
  • これからの人事に求められること

について詳しくお伺いしていきます。

※各種データや肩書はイベント実施時点のものです。

続きはこちら
ラクスル社の事例から紐解く HRBPの役割とは-後編-

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