【ニトリホールディングス/永島氏】タレントマネジメントは一人ひとりが生み出す付加価値の最大化-前編-

  • -
    リンクをコピー
ニトリホールディングス 永島様01

企業によって活用の方法や考え方もさまざまな、人事データ。「人事データ活用最前線」特集では、実際に積極的に人事データ活用を行っている企業への取材を行い、人事データ活用における重要なポイントや具体的な取り組みについて伺います。

今回の事例は、株式会社ニトリホールディングスにおける人事データ活用ついて、組織開発室室長の永島寛之さんに取材を行いました。前編では、ニトリにおける人材教育の考え方について。後編では、現在行われているデータ活用施策に関して掘り下げます。

永島 寛之氏

株式会社ニトリホールディングス 理事/組織開発室 室長

1998年東レ入社。法人・海外営業に従事後、2007年にマーケティングマネ ジャーとしてソニーへ。2013年に米国で初出店を果たしたニトリへ入社。入社後は国内店舗の 店長を経て、2015年より採用責任者、2019年3月より人事・組織開発の責任者へ。

ニトリホールディングス_永島様02

業界平均の3倍の付加価値額を生み出す、ニトリにおける「人」の強み

―最初に、ニトリホールディングスの強みとは何か。永島さんのお考えをお聞かせください。

永島:われわれの強みは、やはり「人」だと思います。従業員一人ひとりが生み出す付加価値額が非常に高いことを、最初に強調しておきたいです。ニトリというと、2032年までに売上高を3兆円にすると掲げていることや、33期連続増収・増益を達成していることがよく注目されています。しかし、その売上や利益を生み出しているのはまぎれもなく、ニトリで働く従業員一人ひとりです。

わかりやすく、数字で説明しましょう。企業全体の粗利額から算出される従業員1人あたりの付加価値額というものがあります。これは、日本の企業では平均で、1人あたり1,000万円ほどだと言われています。製造業などは、1300万円前後が多いですね。流通業界では少し下がって平均が1人あたり600万円前後です。一方で、ニトリでは従業員1人あたりの付加価値額が約2,200万円。業界平均の3倍強となっています。

―なるほど。数字だとわかりやすいですね。他の企業よりも圧倒的に、従業員一人ひとりが生み出す付加価値額が高いところが貴社の強みということですね。

永島: そうです。業界水準と比較して、3倍以上の付加価値額を生み出せる「人」が集まっている。これが、私がニトリの強みは「人」であると言える数値的な根拠です。

―本日は、なぜニトリの従業員は、高い付加価値を生み出せるのかという観点で、実際に取り組まれている人材教育やタレントマネジメントについてお伺いしていきたいと考えています。

永島: では、実際に弊社のなかで行っている「配転教育」の話からはじめましょう。

ひとつの仕事を続けるだけでは、専門性を伸ばすことはできない

―「配転教育」とはいったいどういうものなのでしょうか。

永島:「配転教育」とは、全社員が数年おきに様々な部署・職種への配転を経験して、何種類もの専門性を身につけることで、予想できない不確実なビジネス環境においても、専門性を組み合わせた新しい提案ができる人材を育成するための教育制度です。ニトリではこのような人材を「スペシャリスト」と呼んでいます。アメリカでは、エキスパートゼネラリストと呼ばれていて、最近注目されていると聞いています。

―昨今では「ジョブ型雇用」など、専門性を重視する制度を取り入れている企業も増えていますが、ニトリでは配転を通じて幅広い経験を積むことを重要視しているのですね。

永島:いわゆるジョブローテーションとはベースになる考え方が異なっていて、当然ですが、私たちはただ闇雲に異動をさせているわけではなく、全員をジェネラリストとして育成するために多くの異動をさせているわけでもありません。むしろ、一人ひとりの専門性を高めるために配転教育という育成を行っています。

―さまざまな部署や職種を経験した方が、専門性は高まるということでしょうか?

永島:その通りです。「専門性」をどのようにとらえるかの違いだと思います。

例えば、世の中で広くイメージされる「ジョブ型雇用」や「専門性を高めること」とは、専門職として雇用され、同じ職種でずっとその仕事を続けていくことだと考えられていることが多いのですが、私たちはそうは考えません。

想像してみてください。マーケティング志望者をマーケティング部に配属して、数十年マーケティングだけをやってもらったとして。果たしてその人はずっと成長をし続けられるでしょうか? スキルというものは、同じことだけをやっていてもその成長には必ず限界がくるものです。

だから、私たちは配転を行います。店舗で直接お客様と触れ合った経験は、マーケティングの数字だけでは掴みきれない顧客のインサイトを読み取る感性を養ってくれるかもしれません。経理や会計業務をやってみることで、ビジネス全体の大局を読んだマーケティングができるようになるかもしれません。多くのことを知り、経験したうえで自らの可能性を広げてもらうことが、私たちが配転教育を行う理由です。

ですから、単にポストが空いたから、人手不足だから、といった仕事に人を割り当てるような配置は行いません。従業員一人ひとりの強みと希望と、会社の未来や事業の方向性を考えながら、人事が慎重に判断を行っています。

「今」何をすべきかは「未来」を描くことで見えてくる

―従業員一人ひとりの適性や専門性を考え、その可能性を見つけていくにあたり、具体的にどのような施策を行っていますか?

永島: 私たちはまず、従業員のみなさんに自らの「30年キャリアプラン」というものを書いてもらいます。もちろん、30年先のことは誰にもわからないので漠然としたところがあってもいいのです。30年後に自分がどうなっていたいか、世の中がどうなっていたらいいか、書いてもらう。それでも難しいという人には、SDGsで掲げられている17の目標を見ながら、「自分ならどれに貢献したいと思う?」と問いかけます。

―なるほど。目の前のやりたいことを聞くのではなく、まずは未来を描いてもらうのですね。

永島: ええ。そうでないと、みんな自分の知っている職種や想像できる仕事しかやりたがらないでしょう。 ある種「わかりやすくてカッコいい」ところに目が行きがちです。

―たしかに、知らない部署や職種を志望することはできませんね。

永島: そうして描いてもらった30年後から逆算してみたときに、今の自分にはどのようなスキルや経験が必要だろうか、と考えてもらいながら、彼らの配転を決定していきます。

―そうすると本人も、なんのための配転なのか、何をそこで学ぶべきなのか、納得感を得やすそうですね。

永島: 同時に、社内の他の部署・職種に興味を持ってもらうことも、地道にやっています。

私は週に1度、「人事放送局」という名前の45分の社内のネット番組をやっているのですが、そこでは普段は活躍が見えづらい部署が何をやっているのかを紹介することも多いです。「実は、こういった仕事です」「こんな面白味がある仕事です」。実際に担当者に来てもらって、 その意義などを語ってもらいながら、少しずつそれぞれの部署や職種のことを知ってもらえたらと考えています。

もしかしたら全然知らなかったところでも「3年後はこの仕事をやってみたいかもしれない」と思ってくれる人がいるかもしれないですから。

―未来から逆算して、そのために今必要なことを考えたり、興味を広げてもらったりするんですね。

永島: 加えて、タスクフォースのような部署を横断した取り組みも大切にしています。

例を挙げるなら、「店舗の従業員が店内で使うアプリケーションを作る」という課題がある時、情報システム部門だけでは対応できないし、営業企画の担当者だけでも現場の知見が不足する。

このようなケースでは、すぐに課題を業務に落とし込み、必要なメンバーを決めて、部署・職種関係なくアサインして、一定期間そのプロジェクトに注力してもらいます。タスクフォース企画から発令まで10日くらいです。このようなタスクフォースが常に複数走っています。配転よりも期間は短いですが、「この期間このミッションを達成する」という目標を持って、普段とまったく異なる仕事を経験してもらいます。

そうすることで、見えない組織間の壁が自然と低くなるのは、副次的な効果といっていいかもしれませんね。配転やタスクフォースによって、いろいろな部署・職種に、一緒に仕事をしたことがある人がいる。縦割りの組織で、異動先ではゼロからのスタート、といったことが減りますし、いわゆる風通しのいい組織づくりへもつながっていくのかもしれません。従業員の熱量の高い自律分散型の組織づくりにつながっています。

人事として大切にしていることは「連動」

―続いて、人事担当者や人事部の役割についてお伺いしたいです。永島さんの考える人事とは、どのような存在でしょうか。

永島: 少し抽象的な話になりますが、人事の仕事は「連動」がキーワードだと考えています。

もしかしたら、一般社員の皆様には、人事は「評価を決める人」「評価にもとづき給与を決めている人」くらいにしか思われていないこともあるのではないでしょうか。正直なところ、私も自分が人事を担当するまでは、そう思っていたこともありました。

でも、それもひとつの「連動」ですよね。従業員一人ひとりに関して、その人の評価と給与を連動させている役割ですから。あるいは、一人ひとりの描く未来と、今やるべき仕事を連動させること。ニトリの目指す未来と人事戦略を連動させること。企業文化と日々の仕事を連動させること。

そのように、人事は社内で日々起きているさまざまなことを連動させる役割だと考えています。そのためには、上司と部下も連動させます。

―連動が重要なのはなぜですか?

連動を、一貫性を持たせる、と言い換えた方がわかりやすいかもしれませんね。

あらゆることに一貫性がないと、組織や文化はつくれないからです。
例えば、誰か1人だけ例外的に異動をしない人がいたら、その人の成長とニトリの未来は連動しなくなってしまう。だから、人事はそれを許しません。あるいは、何か難しいタスクに取り組むときに、それを丸ごと外注してしまったら、その仕事と「難しいことこそ自分たちで頭を働かせよう」というニトリの企業文化は連動しない。だから、そういった場面にも人事は積極的に口を出します。

ニトリで働く一人ひとりの仕事は、すべて私たちのロマンやビジョンと連動するようになっています。「住まいの豊かさを世界の人々に提供する。」というロマン。「2032年までに売上高30兆円を達成する」というビジョン。増収増益という事実に満足せず、常に目の前の仕事がそれらと連動していることを目指すことが大切です。ロマンとビジョンに、従業員一人ひとりの仕事を連動させながら、そこで働く人と会社の未来を考えていくのが人事なのだと思います。

まとめ

前編では、ニトリの「配転教育」についてとそれによって、従業員一人ひとりの可能性をどう広げていこうとされているかについて伺うことができました。単なるジョブローテーションではなく、会社とそこで働く一人ひとりが実現したい未来へ向けて必要なことを幅広く経験していくことを大切にするのがニトリらしさであると言えそうです。後編ではさらに具体的に、そういった組織づくり・人材育成を実践するためにどのように人事データを活用しているかについて伺います。

続きはこちら
【ニトリホールディングス/永島氏】タレントマネジメントは一人ひとりが生み出す付加価値の最大化-後編-

  • -
    リンクをコピー