人事データの一元管理 -実現に向けた5つのステップ-

それぞれの企業には、それぞれの人事データがあり、その管理方法も様々です。その中でも共通して意識したいのが、データを統一せずに管理していては活用できない、という点です。

従業員に紙に記入してもらったまま保管されているだけのデータはないでしょうか?
従業員から回収したデータをExcelにいちいちコピー・アンド・ペーストするだけで業務が終わってはいないでしょうか?
これらは人事データが一元管理できていない企業の悪い例です。データは一元管理し、常に見やすく使いやすい状態になければ、活用にはつながらないのです。

この記事では人事データを一元管理することのメリットや、一元化された人事データベースをつくるまでのステップについてご紹介します。

1.人事データは、なぜ一元管理が必要なのか

人事のデータは、バラバラのツール、バラバラの場所に存在しても、適切に管理されているとはいえません。 

この章では、一元管理の重要性について考えていきましょう。

1-1.「人事データ」は、本来日々集まるもの

人事データの一元管理の重要性を理解する前に確認しておきたいのが、「人事データ」とは具体的にどのようなものを指すのかということです。

最近では「人事データを活用した戦略人事の実現」や「人事データを活用したタレントマネジメント」といった言葉をよく聞くようになりました。このような言葉を聞くと、ここで言う「人事データ」とは何か特別な新しいものだと感じてしまうこともあるかもしれません。

しかし、戦略人事やタレントマネジメントの文脈で語られる「人事データ」とは今までにない新しくデータを収集するものばかりではなく、どちらかといえば通常の人事業務の中で得られるものが大半です。たとえば入社年次や異動歴、勤怠の情報。過去の人事評価や昇進・昇給の履歴といった従業員の基本情報もこれにあたります。

また、上記はおおよそ客観的なデータですが、従業員の主観が入ってくるものや定性的なものも人事データとして扱うこともあります。たとえば従業員向けのアンケートやサーベイの中にあるテキストデータなどの数値では表せないもの。分析の難易度は高くなる傾向にあるものの、こういったものも大切な人事データだといえるでしょう。

人事データとは

客観的なデータの例
・入社年次や異動歴、所属の拠点や部署
・過去に携わったプロジェクト
・保有資格
・勤怠情報
・給与・賞与情報
・人事評価

主観的なデータの例
・従業員向けアンケートやサーベイ
・面談などで共有された内容

人事が取り扱うデータについてはこちらの記事でも解説しております。
こちらもあわせてご参照ください。
人事が取り扱うデータとは?

1−2.データの一元管理は、データに基づいた判断のために必要

人事データを一元管理することの重要性を知るためには、人事データが一元管理されていない状態を想像してみるとわかりやすいでしょう。

従業員は住所やこれまでの経歴といった基本情報を手書きの書類で提出。勤怠や評価はいくつもの異なるExcelやスプレッドシートで管理され、従業員アンケートも実施したまま集計されているのみ。このような状態では、何が起こるでしょうか?必要なタイミングで必要なデータを探すことが難しいため、結局取得したデータを誰も見ないという状態に陥ってしまうかもしれません。

たとえば社内で新しくプロジェクトをはじめる際、プロジェクトメンバーに最適な人を探そうとしても、これまでのプロジェクト参画履歴や保有資格や保有スキルがわからなければ、根拠のない人選が行われるかもしれません。

あるいはマネージャーがチームに課題を感じていても、勤務時間の問題、仕事のやりがいの問題、人間関係の問題……とその原因は手探り。闇雲にマネージャーが解決策を模索をしなければならないかもしれません。

こういった事態を防ぐために、人事や現場のマネージャーの判断の助けになるような人事データが必要なのです。

逆に言えば、人事データを適切に管理することのメリットは大いにあります。保有資格や保有スキル、これまでの経験といった経験データを活用した部署異動や人材配置。従業員サーベイなどのリアルな声をタイムリーに拾い上げるマネジメント。人事や現場のマネージャーによる、根拠のある判断と施策の実行が可能になります。

そして人事データに基づいてこういった判断をするためには、常に必要なデータがどこにあり、どのようなデータを、どのように見れば良いのかがわかる状態にしておくことが欠かせません。そのために、最新のデータを、適切に一元管理する必要があります。

2.事例から、データ一元管理のメリットを知る

1章では、データを一元管理することの重要性を学びました。2章ではもう少し具体的に、いくつかの企業様が実施したデータ一元管理の事例を見てみましょう。

1章で考えた内容を踏まえ、どのようなメリットがあり、具体的にどのような活用をしているのか、イメージしながら読んでみてください。

2-1.弁護士法人法律事務所オーセンス様の事例-人事業務の効率化と人為的なミス削減-

弁護士法人法律事務所オーセンス様では人事データを複数のExcelによって管理していたため、データ量が大きくなるにつれ、その入力や確認、情報共有などに膨大な時間がかかってしまい、人事担当者の負担が非常に大きくなっていることが課題でした。

そこでExcelによる管理から、一元管理できる人事管理システムを導入。人事担当者の残業時間が削減されたことに加え、手入力や目視による確認が減り、人為的なミスも少なくなりました。またシステム上で従業員への閲覧権限付与が可能となったことで、必要なときに必要な人が容易にデータを参照できるようになり、現場からの要請に応じて人事担当者がデータを準備する手間も省けるようになったと言います。

データを使う、活かす、という視点でもデータの管理は大切です。一方で人事担当者の負担軽減や人為的ミスの予防も、一元管理を行う目的のひとつだといえるかもしれません。

弁護士法人法律事務所オーセンス様の事例をより詳しく読むにはこちら
人事データ活用最前線【弁護士法人 法律事務所オーセンス】

2−2.株式会社メグラス様の事例-常に最新の従業員情報を取得-

株式会社メグラス様では、従業員情報が紙で管理されており、情報更新作業が煩雑になっているという課題がありました。最新の情報がわかりにくくなっており、それゆえ提出されたデータの真偽を確認するだけで会議の進行が止まってしまうことも。そこで、人事データを一元管理できるようシステム導入しました。

システムで管理を採用したことで、常に最新の正しいデータをもとに、会議での議論が可能になりました。加えて、個人情報のセキュリティ強化や業務の効率化にもつながったそうです。

従業員が自らのデータを自ら管理することが可能な状態を目指すことが、次のフェーズ。人事がデータをとりまとめて入力・管理するだけではなく、従業員それぞれがデータベース上の自分のデータを管理できるようになることが検討されています。

株式会社メグラス様の事例をより詳しく読むにはこちら
人事データ活用最前線【株式会社メグラス】

2−3.WILLER EXPRESS株式会社様の事例-社内コミュニケーションの活性化

WILLER EXPRESS株式会社様がめざしたのは、社内の情報を一元管理できるデータベースの構築です。

高速バスの管理・運行を行う企業で、全国に複数拠点を持つ企業であったため、それぞれ所属従業員のデータが紙やExcelなど、拠点ごとバラバラに管理されていました。

そこで全社統一のデータベースを構築するため、人事管理システムを導入。その結果、共通のデータベースができたことで社内のコミュニケーション活性化につながりました。

たとえば、データベースを検索すれば違う拠点に所属する従業員の情報がわかるため、拠点を横断する依頼がしやすくなったり、会ったことのない相手との業務連携が容易になったりなど。まずはコミュニケーション活性で、ひとつのゴールを達成。今後は従業員の健康管理やパフォーマンス向上のために、管理されているデータの分析や活用を行っていく段階となっています。

WILLER EXPRESS株式会社様の事例をより詳しく読むにはこちら
人事データ活用最前線【WILLER EXPRESS株式会社】

3.人事データの一元管理に向けた5つのステップ

1章、2章では、データ管理を一括で管理することの大切さについて見てきました。ここからは、より詳しく、どのような順番で何をするべきなのかについてご紹介します。

3−1.ゴールの設定をする

まずは、「自社の現在の課題」や「自社にとってのあるべき姿」を考えてみましょう。データの一元管理のためには、先に手段を考えたくなりますが、ゴール設定を疎かにしてはいけません。

なぜなら、「デジタル化」「データ活用」といった言葉は曖昧なもの。ゴール設定が曖昧では、何のためのデータ収集なのかわからなくなってしまうからです。自社にとっては何が必要となるのか、考えてみることが大切になるでしょう。

2章の事例を参考に、「異なる拠点の人の顔と名前がわかるようにしたい」「複数あるExcelの情報をひとつにしたい」など、自分たちにとって必要なゴールを考えてみてください。大きなゴールを曖昧に掲げるよりも、まずは小さなゴールを明確に掲げるほうが、最終的な人事データ活用がスムーズにいくケースが多いです。

3−2.自社にあるデータの状況を把握する

ゴールへ向けてどのようなアクションを起こすべきか考えるためには、まずは現状を知ることが大切です。最初からシステムを導入するなど、手法から検討することは決して悪いことではありませんが、まずは自分たちが保有している人事データの現状をを把握しましょう。

たとえば、紙のデータとExcelデータが社内に混在している状態であれば、一元管理のためのシステムを導入するのもいいでしょう。

あるいはデータベースやシステムはすでにあるものの、そのデータが活用されていないときは、データ収集の目的が曖昧だったとも考えられます。その際は、ゴール設定を見直すことも必要です。そのように、現在の自分たちがどのような状況なのかを把握します。

ゴール設定とデータの状況把握に関しては、現状を踏まえてゴール設定を行うケースも多いので、同時に進行しても問題ありません。

3−3.データ管理の方法やルールを決める

ここから、データ一元管理のより具体的な手法について。まずは、どのようにデータを管理するかを検討します。

ひとつは、Excelやスプレッドシートなどで管理する方法です。安価に始めることができる点がメリットといえます。ただしデータが増えてくるとファイルを分けざるを得ない等、一元管理が難しくなることも想定し、Excelやスプレッドシートを使用しなくなることも見据えた選択が必要になります。

もうひとつの管理方法として、各社が提供している人事データ管理のためのシステムもあります。選定の際には様々な項目の情報が管理でき、情報の更新が容易なものを選ぶのがいいでしょう。

まずはExcelなどコストをミニマムに抑え、データが増えたタイミングで管理システムを導入する流れを検討すると始めやすいかもしれません。

データを管理する手段を考えると同時に、データを管理・運用するためのルール決めも欠かせません。具体的にはデータの収集方法や開示範囲などを決めておくとスムーズです。人事データには従業員の個人情報も含まれるので、誰がどのように扱うのか、明確なルールを決めておくことが求められます。

3−4.データを集める

データを管理する手段やルールを定めたら、データを集めます。もし社内に存在する人事データが全て紙で保管されている場合は、最初は手入力でシステムへ移行する必要があります。データ活用の目的によっては全く新しいデータが必要な場合、従業員のみなさんへお願いして集めてくる必要があります。

ここで重要なのが、データを集める目的を組織内できちんと伝えることです。そこを疎かにすると、通常業務が忙しい中で「何のためかわからないアンケートをたくさん書かされている」という状況が生まれてしまいます。もしくは、「正直に書いたら上司に告げ口されるかもしれない」というふうに考え、参考にならない内容が集まることも起こり得ます。こうなると、そのデータには欠損が目立ち、確からしさを欠くものになってしまいます。

組織を良くするために、どのように協力してもらう必要があるのか。経営層、マネージャー、従業員、それぞれとのコミュニケーションが非常に大切です。

3−5.データを整理する

データの収集と並行しながら既存のデータを整理します。すでにあるデータの誤りや欠損を見直すことや、新たに集まったデータを必要な箇所に格納していきます。

データを整理するとは、古いデータや間違ったデータを削除し、最新の情報を反映した正しいデータにすること。あるいはデータの足りていない部分を補ったり、必要のないデータを取り除くことも含まれます。たとえば手入力で入力した際のミスを修正する、表記ゆれを揃える。ここはかなり地道な作業です。正確なデータでなければ正確な結果は得られないため、コツコツと取り組む必要のあるポイントになります。

4.人事データはメンテナンスし続ける必要がある

これまで説明してきたことを一通り行うことができれば、人事データを一元管理するデータベースはある程度完成です。

完成ではあるのですが、一度つくったら終わりというわけでもないのが、データベース。継続的にメンテナンスし続けることが必要になります。

メンテナンスとは主に、データを集めることと、データを整理することです。一度データベースを整えたとしても、徐々にそれは古くなっていくため、都度見直しをします。運用していくうちに、組織内から要望があれば、新しいデータを集めることも検討しなければいけないかもしれません。

あるいは、管理者・閲覧者の権限が広くなってくると、定めたルールを見直す必要が出てくることもあるでしょう。

5.まとめ

最後に、本記事の内容を振り返っていきましょう。

データ一元管理5つのステップ

1.ゴールの設定をする
2.自社にあるデータの状況を把握する
3,データ管理の方法やルールを決める
4.データを集める
5.データを整理する

まず人事データの一元管理は、ゼロから特別なデータを集めることは少なく、通常の人事業務で集まるデータを、必要なタイミングで必要な人が適切に活用できるように整備していくために行うことでした。

そのためには、何のために人事データを整備するのか、ゴール設定が最も重要です。「一人ひとりの異動歴が時系列でわかるようにする」といった、まずはわかりやすいところを目標として明確にしましょう。同時にあるいは、ゴール設定を行った後、自社の人事データの現状把握も行います。

ゴールと現状がわかったら、それらに合わせてデータの管理手法の選定や運用ルールを定めます。組織内でのコミュニケーションが大切である点を忘れずに。データを実際に集めてからは、データが常に最新で正確なものであるかを、精査し続けることが大切でした。

社内の人事でデータを一元管理できるデータベースが構築できた後は、次のゴールを定めて、また目的へ向かってデータを活用できるようにしましょう。大きくて曖昧なゴールよりも、小さくて明確なゴールを都度達成していく方がうまくいくケースが多いです。漠然とした「デジタル化」「DX」といった言葉に迷わされるのではなく、自社でやるべきことを見極め、その目的に向けてデータを活用していくことが成功のポイントです。